胎内記(抜粋)

(前略)

昨日あれだけ遅くまで起きていたのに、朝は7時に目覚めた。またも何かがおかしい。 旅行は人を変えてしまうのだろうか。当然、僕たちの中では僕以外誰も起きていない。 できるだけ音を立てないようにして寝袋から出て、体と寝袋をテントの外に出した。 寝袋をかばんにしまいたかったが、かばんはテントの外に出していたからだ。

テントの外にはTがつぶれて眠っていた。昨日あれだけ飲んでいたから仕方はない。 車の中で寝ている人もいた。テントが5人用でうちの大学で来ているのが7人だから、 どうしても車かテントの外かで寝る人が出る。しかし、一番最後に寝たはずなのに、 なぜ僕がテントで寝られたのだろう。 その事に気づいて不思議に思いながら(テントで目覚めた時は不思議に思わなかった・・・)、 かばんに入れていた朝食のパンを取り出して食べた。物が食べられることも信じられないのだが。 軽い朝食を済ませた後は、今日の夜のことを考えて再び寝袋で寝た。

次に起きたのは9時ごろだった。さすがにこの時間では起きている人もいる。 みんな、朝食を食べたり、歯を磨きに行ったりと、宴の翌日の朝らしく特に何もなくけだるげに時間を過ごした。 その後、先輩たちは晩ご飯の食材の買出しに行った。僕はその間、今までの行動記録を書いたり、 旅行のために買っておいた小説を読んだりしていた。何事もない。はっきり言って午前中は暇だった。 午後も、1時ごろに通り雨が降り、Kが慌ててテントに帰ってきたことぐらいで、 4時までは暇だった。そう、4時までは。

今日のメインイベントは、午後4時から始まった。さすが天文、メインイベントの始まる時刻が違う。 もちろん、これから夜を迎えてさらに活気づくのである。メインイベントの始まりは1回目のオークションである。 もちろん、司会はこゑん師匠。「1回目」というのは、24時ごろに2回目のオークションがあったからだ。 このオークションはただのオークションではない。 「これは『逆オークション』か?」と疑いたくなるような値段で品物が競り落とされていくのだ。 どの位すごいのかと言うと、品物の売値よりおまけのフィルムの方が高いぐらいの値段で売れるのだ。 他にも望遠鏡が10000円位で売れたり(古い型ではあったが)、 出品された望遠鏡についているアイピース(接眼レンズ)が競り値の半分以上の値段がするものだったり、 買値が安すぎて司会が売るのを認めない事も結構あった。

また、新潟の銘酒も出品されていた。かなりいろんな物が出品されていたが、 驚くべきは『天文ガイド』という雑誌の編集室にあったPC−98が出品されていた事だ。 そんな物もオークションに出すのか、と唖然とした。競り値の争いも見られ、見ているだけでも結構楽しめた。 2回目のオークションでは1回目の売れ残しも再び出品され(『天文ガイド』編集部のPC−98も例外ではない)、 かなり盛り上がっていた。このオークションは天文ファンなら絶対逃せない。

(「胎内記」より)